生物学を志す孫への手紙
ERストレス と1型糖尿病 #2 --- ER stress and Type 1 diabetes #2 ---
前略
ERストレスとT1D,第2回です。今回読んだのは,"Where, How, and When: Positioning Posttranslational Modification Within Type 1 Diabetes Pathogenesis"(Curr Diab Rep (2016) 16: 63 | PMID: 27168063 | PMCID: PMC4863913 | DOI 10.1007/s11892-016-0752-4)です。
代謝ストレス,ウイルス感染,さまざまな要因による炎症ストレスが,β細胞だけでなく膵島組織内APC(抗原提示細胞)においても,TgaseやPADがなどのPTM酵素を活性化させ,これによって修飾されたタンパク質の多量の貯留が起こる。これは修飾ペプチドが膵島内免疫担当細胞に提示されてしまう機会を増やすことになり,これが新生抗原として免疫系により「よそ者」と判断され免疫応答を引き起こす。
これがこの総説でのシナリオのようです。前回のものと基本的には変わりないですね。
PTMによる自己抗原生成がβ細胞だけでなく周辺リンパ組織や膵島などのAPCでも行われる可能性があること,TgaseやPADによって脱アミド化,シトルリン化されたタンパク質・ペプチドとLHAとの親和性が高くなっていること,修飾タンパク質への応答の後に非修飾タンパク質へも応答が拡大する可能性があること,などが書いてあります。
T1D発症に実際に関わっている自己抗原として,インスリンやGAD65(Glutamate Decarboxylase,グルタミン酸脱炭酸酵素)があげられていますが,実際にT1D発症にどれほど関与しているか確定していないようです。恐らく人によって自己抗原も抗原決定基も異なるのでしょう。そういう意味で,PTMタンパク質をバイオマーカーとして使えないか,とか,移植も含めてオーダーメイド医療にもつながるのでは,と期待しているのかもしれません。
ただ,オーダーメイド医療と言えば聞こえはいいが,結果としてコスト上昇につながりはしないか,今後の研究成果が気になるところである。
草々
2016年11月16日
2016年11月16日